女性に剣をあげることも、
誰かにこれほど喜ばれた事も今まであっただろうか?―




impatience






「ありがとうバッシュ、大事にするわ!」


終わる事のないその笑顔に自分の顔までほころんでしまう。

「私にはもったいないくらい」

「そんな事はないだろう」

平静を装うバッシュを前に
はまた剣を見つめて瞳を輝かせる

それで戦えと言う訳ではなく
自分の身を守る為に使って欲しいと伝えたのは
剣を教えると約束した時の理由があるから

我々と共にいると可能性が無いとは言えないだろうから。



「自分が出来る事をするまでです」と答える

その気丈さが時に不安を煽るけれど
それを打ち消す笑顔に言葉を飲み込まれる

「弱いのは自覚してます、だから手合わせしません?」

微笑むように見つめる顔。
立ち上がり歩き出すに促され剣を取った。



「手加減はナシね」

「ああ」

「嘘つき、するでしょ。本気で戦ったら私なんてあっという間だもの」

「その本気とは違うだろう。」

「ごめんなさい、馬鹿なこと言ったわ」

当たり前すぎる事だ。
だが、いつから私の心は変化しはじめていたのだろうか。
教えて貰えるだけで十分だったのに僅かにそれがズレ始めたのは。。。

少しでも近づきたいと、対等になりたいと思う様になっている自分がいた。






「―・・・」

一呼吸ついて剣を構え、スッと開いた彼女のその瞳は
さっきとはまるで別人の様に凛々しい。


だが、気付いたのはいつだろう。
の成長を見るのが自分の楽しみにもなっていると。

そしてその時間が理由によって確約されているのだ。

眼差しも、声も、真剣な顔も、そして笑顔も―
この時だけは自分1人だけに向けられている。



互いの間を風が通り過ぎたのを合図に
鉄のぶつかる音が響いた




「遅いぞ!」

目では捉えているのに意識と反対に体がついていかない。
何とかその場を凌ぐだけの防御を続けてはいるが、
このままでは徐々に追い詰められ体勢が崩れてしまう。

「!―ッつ」

無理に振った剣は容赦なく放たれるバッシュの一撃を受け止めたものの
力に負けの手を離れキィンと高い音を鳴らし宙を舞っていた。

諦めたくなくて腰に差していた予備のダガーを抜こうとした時には、
向かう筈だった軸線上をバッシュの剣先が止めに入っていた

「そこまでだな」

「・・・ありがとう、ございました」

肩で息をしながら頭を下げ、飛んでいってしまった剣の元に走っていった


「大切なものなのに」
と、それをあげた本人に向かって呟いた

「悪い事をした。だが、それだけ今日のは打ち込みが良かったという事だ」

「それはきっとお守りのお蔭ね」

剣を拾い上げ柄についた砂をほろっている。
彼女の言っている『お蔭』はこの剣に対してのようだ

を守る物ならばそれでいい」

「違う、そういう意味じゃないの。うーん、バッシュには理解しがたいかもしれない」

両手で高らかに空へ向けられた剣は
陽を受け輝く刃と施された装飾が虹色を作り出しを彩った



落ち着きのある透き通った声がその理由を告げる

「苦しい時が来てもね、私の心を支えてくれる。バッシュと同じね」

『だから大切って言ったの。』と、
そのあまりにも無垢な言葉に柔らかい笑顔は
真上にある太陽よりも目を眩ませる程に強くて。



「まだまだ俺も弱いな・・・」

これだけの事で昨日より強くなれるのだとしたら
今の自分など容易く追い抜いてしまうのではないだろうか

彼女の発する言葉一つで動揺する気持ちを抑えるのが精一杯なのだから―